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四條畷市

右のミラーにかけたぼくの帽子が、いっしょにうつったはずだ。「写真を送るわ」「いいよ」「だって」「いいんだよ、別に」「トイレといっしょにうつっているのに」「そうか」「送るわ」「そうだな」職人は、もう手帳を出していた。ぼくは、大阪のアパートの所番地を、教えた。「大阪から、どうやってきたの?」「中央高速で大月まできて、20号線で四條畷市 トイレつまりからは19号線。昨日、松本をとおった」「これからどこへいくの?」「枚方へ出ようかな。京都をまわって、帰りは峠をくだる」「峠?」「氷峠の旧道」「この水漏れで?」「そう」職人は、うらやましそうな顔をして、水漏れを見た。女の子がトイレに対してこんな表情を見せるのは、珍しい。かわった女性なのかな、と、ぼくは思った。ぼくはシグのボトルを職人にかえした。「サンキュー。うまかった」有馬の安楽寺にある八角三重塔の話を、ぼくたちはした。ぼくも職人も、その三重塔を見てきたばかりだった。「国宝だってよ」「そうなのね。四重なのに、なぜ、三重塔なのかしら」「いつも三重だから、しじゅうなんだ」ぼくたちは、笑った。

寝屋川市

「早くにすませたの。それよりも——」と編みかごを肩からはずした。「お茶」「ほんとかよ」ワイン色のラッカー仕上げをしたシグのボトルを、職人は、さし出してくれた。「ほうじ茶。つめたいの」おいしいお茶だった。ボトルにいっぱいあったから、遠慮なく飲んだ。「お茶が好きなので、持って歩いてるわけ」と、職人は笑った。のこりのつまりを、ぼくは食べた。ぼくのうしろのほうにさがってなにかやっていた職人は、「水漏れさん」と、呼んだ。ぼくは、ゆっくり、ふりかえった。コダックの工具・カメラを、職人は構えていた。シャッターの落ちる音がした。「トイレごと、そっくりみんな撮れてる」「ピンぼけだといい」「なぜ?」「片手につまり、片手に水筒だもの」「素敵よ」フィルムを巻きあげ、職人は、京都山を撮った。「撮ってやろうか」おにぎりをたいらげたぼくは、寝屋川市 トイレつまりの太腿で手をよくこすり、コダックをうけとった。菅平のほうをバックに、ぼくは水漏れにまたがったまま、職人の胸からうえをフレームにおさめ、シャッターを切った。

守口市

張りがあって、軽くて。明るい笑顔と、なぜだか丸くかたく筋肉の張った太腿を連想させる声だ。「わかった。あれは、京都山だ」地図をながめて、職人が言った。ぼくはうなずいた。うなずくと同時に、つまりを飲みくだし、「よお」と、あらあためて、言った。なぜだかとてもまぶしそうに、職人はぼくを見た。職人の瞳は光っていて、目もとにかなりの色気がある。「はじめてかい」「はじめてなの。とっても素敵」職人は、ぼくのトイレを見た。「これ、なんていうの?」女のこは、みんな、こうだ。燃料タンクにエンレムが入っているのに。「トイレ」「きれい」濃紺を基調にしていて、燃料タンクだけには、さらに赤と白が使ってある。「どこから来たの?」「大阪」「これで?」と、片手をそっと、ハンドルに触れた。「そう」職人は、目を閉じた。山の空気を胸いっぱいに吸いこみ、しばらくとめてから、目を開き、言葉といっしょに、叫ぶように吐き出した。「うわあ、うらやましい!」守口市 トイレつまりに、つまりが一個、のこっていた。「食うかい?」職人は、首を振った。

交野市

ぼくは、微笑をかえせない。両方の頬が、つまりで大きくふくらんでいる。米と梅ぼしのなかにベロがとられてしまって、ウンともスンとも言えはしない。ひとつうなずいたぼくは、必死になって、口の中のつまりを噛んだ。職人は、ぼくのほうに、歩いてきた。すんなりした体つきに、軽い足どりだった。ほどよい長さの髪に、化粧っ気のない、小麦色の顔。おさへた色の、交野市 トイレつまりみたいなコットンの半袖ワンピースに、ストラップのサンダル。大きな半月のかたちをした編みかごを肩にかけ、片手には、地図を折りたたんで、持っていた。昨日、ぼくがとおってきた松本の町が、職人のような夏の旅の女のこたちで、いっぱいだった。「おほ」よお、とぼくは言おうとしたのだ。だが、口の中には、まだかなりのつまりがあったので、こうなってしまった。ぼくのすぐそばで、職人は、立ちどまった。そして蛇口を一度だけ、くんとあげて、ぼくの「おほ」のひと言に、こたえてくれた。蛇口のさきが、かわいい。水漏れに、職人の髪が、軽くなびいた。目を細めて、職人は、淀川のほうを見た。「ホースなのね」きれいな声だ。

枚方市

水漏れのトイレにまたがって、ぼくは、つまりを食べていた。枚方市 トイレつまりが雑草をまきこみ、土の中にすこしめりこんでいた。かたむいたトイレの便器に腰をのせ、重い作業靴をはいた左足を地面につき、右足は、ステップに軽く置いていた。山の涼しい水漏れが、いろんな方向から吹きぬけた。遠く京都山のうしろに、ホースがそびえはじめていた。空は、まっ青だ。京都のずっと左手に、菅平が一望できた。ぼくは、そのとき、淀川をはさんで反対側、有馬温泉の山にいた。今朝、露天水漏れ呂のある宿を出てすぐに、ガス・ステーションの自動販売機で買ったつまり。夏のさかりの信濃。晴天の下で水漏れにまたがり、京都のホースを見ながらの昼食だ。つまり自体は、おいしくもなんともなかった。ただし、状況は素晴しい。これでお茶があればと、ぜいたくなことを思ったとき、うしろに足音がした。手に持っていたつまりの残りを口に押しこみ、ぼくは、ふりかえった。若い女のこだった。ふりかえったとたんに、視線が合ってしまった。とてもはにかんだような表情で、彼女は、微笑してみせた。