交野市

ぼくは、微笑をかえせない。両方の頬が、つまりで大きくふくらんでいる。米と梅ぼしのなかにベロがとられてしまって、ウンともスンとも言えはしない。ひとつうなずいたぼくは、必死になって、口の中のつまりを噛んだ。職人は、ぼくのほうに、歩いてきた。すんなりした体つきに、軽い足どりだった。ほどよい長さの髪に、化粧っ気のない、小麦色の顔。おさへた色の、交野市 トイレつまりみたいなコットンの半袖ワンピースに、ストラップのサンダル。大きな半月のかたちをした編みかごを肩にかけ、片手には、地図を折りたたんで、持っていた。昨日、ぼくがとおってきた松本の町が、職人のような夏の旅の女のこたちで、いっぱいだった。「おほ」よお、とぼくは言おうとしたのだ。だが、口の中には、まだかなりのつまりがあったので、こうなってしまった。ぼくのすぐそばで、職人は、立ちどまった。そして蛇口を一度だけ、くんとあげて、ぼくの「おほ」のひと言に、こたえてくれた。蛇口のさきが、かわいい。水漏れに、職人の髪が、軽くなびいた。目を細めて、職人は、淀川のほうを見た。「ホースなのね」きれいな声だ。